ウーマ 
飲もうスラーダ、素敵な夢へ…あ、つい、いつものクセが…
どうして広告の宣伝文句を？
え？聞いてたんですか？
そ、そんなに大きな声を出さないでください。誰かに見つかったらまずいので…しーっ……
なんで人に見つかったらまずいんだ？
私はウーマ、ファミリーのニュースキャスターです。道端のスクリーンを見たことがある人なら、私がキャスターをしている番組も多少は目にしたことがあると思いますよ。
本当なら今は勤務時間なんですが、あまり仕事がないのでこっそり抜け出してぶらぶらしていたんです…告げ口はしないでくださいね。
平常心
ニュースを読み上げている時のように、ウーマの表情からは喜びも悲しみも読み取れなかった。
あなただったの…私たちの会話は他言無用ですよ。
お前と話したい。
それは構いませんが、デリケートな話題はやめてくださいね。
💭ああいうニュースをどう思う？
💭お前は自分の仕事が好きか？
怒り
ウーマは眉をひそめ、怒りのあまり頭の上のボンポンを揺らした。
「ピノコニーニュース」、いかにも上質で洗練されたふうに聞こえるでしょう？でも私に言わせれば、ただの鳥合の衆が作った番組に過ぎません！
「ジョゼフ報道賞ノミネート」だの、「銀河ゴールデンジャーナリスト100」だの、確かに肩書は立派ですが…実際は頭の中が空っぽで、タブロイド紙のパパラッチにすら敵わないんですから。
この前上がってきた原稿にあったロビンさんのスキャンダルなんて、本当に最低でした！最終的に放送されなくてよかったですが……
あの人たちは頭が悪いのでしょうか?夢を紡ぐのは簡単なことではないのに、どうして針で夢の泡を突き破るようなことをするのでしょう？
あの人たちの口をケーキで塞ぐべきです！
喜び
ああ、「黄金の刻」はまた安らかな瞬間を刻んだ…よかった。
きっとこれがファミリーの美しい夢なんでしょうね。すべての人の希望は満たせなくても、一部の人に深い感銘を与えることはできますから。
私の仕事には確かに価値があるようです──それ以上に喜ばしいことはありません！
悲しみ
はあ…私はこんな張子の虎になりたいなんて思ったことはないのに。
私の夢は調査報道記者になって、宇宙に隠された真実を解き明かして、情報格差によって大衆がミスリードされないようにすることでした。
ですが「万界の癌」の影響もあって、私は夢境の中に留まり、ファミリーの過ちを粉飾する手伝いをするしかなくなりました…私がずっと追い求めていた真実は、かえって一番どうでもいいものになってしまったんです。
もちろん、それが必要なことだということも、夢境の安定を維持するための手段だということも知っていますが……
ピノコニーの福祉のために、まさか理想と逆の道を行くことになるなんて…本当に皮肉ですよね。
ヴィターリ
動くアイテムだ！動物園なんかよりずっと面白いよ。ぜひご覧あれ！
おや、そこのお客さん、あんたもアイテムショーに興味があるのかい？それならここに来て正解だよ。
俺の名はヴィターリ、ピノコニーで最も不思議なアイテムトレーナーだ！見てごらん、俺の後ろにあるのは最新のトレーニングの成果だよ。
アイテムを…トレーニングする？
そうさ。「スウィート・ドリーム劇団」は見たことがあるだろう？あのかわいい小物たちは夢境にたくさんの彩りを加えてくれる。
だけど、すべてのアイテムが「スウィート・ドリーム劇団」になれるわけではないんだ。すべてのお客さんに最高の夢境体験を提供するため、最も魅力的なアイテムだけがファミリーによって改造される。
選ばれなかったアイテムにはもちろん色々と理由があって、例えば創造性が足りない、品質が劣る、未熟すぎる、あるいは年数がたちすぎているとか──あぁ、これでは誤解を招いてしまうかも──「使用年限が長すぎる」と言うべきかな。
そしてアイテムトレーナーの仕事は、そうした選ばれなかったアイテムをトレーニングし、それらが「動き出す」夢をかなえられるようにサポートすることなんだ。
説明するより見てもらった方が早いな。ちょうど、このドリームアイスはまだトレーニングが完了していないから、この場で実演してあげよう。まばたきしないで見ててくれ。
ヴィターリはどこからともなくムチを取り出し、コーンに激しく打ちつけた。ヒュンヒュンと風を切る音に思わず目を細めた。
変われ！変わるんだ！
そうやってムチで数分間打ち続け、ようやく止まった。それは優しさからではなく、彼が力を使い果たしたからだった。
ふぅ、本当に疲れるよ…どう、これが俺の毎日の仕事だ。
これで本当に効果があるのか？
苦しみに耐え抜いてこそ、上質なものになれる。アイテムに運動能力を持たせるためには、数力月連続でひたすらムチを打ちを続けなければならないんだ。
彼らの夢のため、俺は身を粉にして尽くしている──もし彼らのパフォーマンスが俺を満足させられないなら、それは恩をあだで返すことに他ならない。
虐待のように感じるが……
オホン…まあ、そうだな。トレーニングの見栄えがあまり良くないかもしれないことは認めよう。
だけど心配はいらない。この方法はファミリーの規定に完全に準拠しているからな––どうせ動かないアイテムはオムニックですらない。物に権利など一切ないんだ。
ということは、動くようになったらあるってことか？
…オホン、そうじゃない。適当に言っただけだから、本気にしないでくれ。
結局のところ、「スウィート・ドリーム劇団」であれ、こいつらであれ──すべて人々に遊ばれるための置物にすぎないんだ！
俺の知り合いにアイテムトレーナーの同僚が何人かいるけど、仕事で頭がおかしくなったようで、アイテムを自分のパートナーとして扱うようになった…いくらなんでも度が過ぎている！
とにかく、アイテムに同情するのもよし、単なる好奇心でもよし。いつでも俺のところにショーを見に来てくれ──笑いが止まらなくなること間違いなしだから！
平常心
よくよく考えてみると、アイテムのトレーニングは家畜のトレーニングとそう変わらないな。最終的には金を稼がないといけないわけだし ……
それなら、もっと目を引く活動をやってみればいいんだ。ガラス瓶に綱渡りをさせたり、ゴミ箱に火の輪をくぐらせたりとかな。客さえ満足させられれば、金の心配はいらないだろう？
客が猟奇的な趣向の持ち主なら、アイテムのトレーニングを直に体験してもらうってのもアリだな ……
うん、金も稼げるし仕事もはかどる。このアイデアは素晴らしい。やっぱり落ち着いて考えれば、アイデアが次々と浮かんでくるものだな。
だが、ちよつと待て。考えてみると、俺がトレーニングしたコーンの味は悪くなかった…職業を変えて、コーンを売るというのも悪くないかもしれないな？
職業への熱意が失われたヴィターリの頭には、商売のことしか残っていなかった。
どんなショーがあるんだ？
現在、出演できる主力はミス・街灯、ミスター・ガラス瓶、ビジター・ゴミ箱の3名だよ。お客さんはどれが見たいんだ？
街灯
ガラス瓶
ゴミ箱
ドリームアイス
怒り
これで終わりだと思うのか？俺のコーンを食べておいて、そのまま帰れると思っているのか？ダメだ！そうはいかない！
俺が心血を注いだアイテムを食べたんだ。このことは絶対に忘れないからな！俺に許してもらえるなんて思うなよ。永遠に許さないからな！
普通の人が相手なら、彼はずっと怒りを抱いていられるかもしれない。しかし、あなたに対してはそうはいかない──クロックトリックのすごさを見せつける時が来たようだ。
喜び：貪欲の運命に踏み出す
……
ところで、あのコーンはどんな味だったんだ？
おいしかった。
よかった。あいつの一生も報われたようだな。
あんたがあんなに勢いよく食べるのを見て、俺もコーンを食べたくなったよ。そしたら、ふとあることに気付いたんだ ……
──そうだ、コーンはそもそも食べるためのものなんだから、あんたがコーンを食べたことに対して俺が怒る理由なんてあるか？物は人の欲求を満たすためにあるんだから。
この街にはまだたくさんのコーンがあるから、もう1つ見つけてトレーニングすればいいだけのこと。どうせさっきのヤツも言うことを聞かなかったわけだし。
あっ、そうだ。あんたはコーンが好きみたいだから──これをやる。もう俺がトレーニングしたものを食わないでくれよ。
悲しみ
思い返せば、俺もピノコニーに…ずいぶんと長くいるもんだ。
最初は夢を追いかけてここに来たんだが、今はどうだ？最初の夢が何だったのかさえ思い出せない。
名誉、金、快楽…俺の目に魅力的に映ったものは、どれも俺の手には届かなかった。
俺は負け犬だ…本当に俺のごとを理解しようとしてくれる人すら見つけられなかった……
結局は、言葉を話せないアイテムだけが俺の話に耳を傾けてくれた……
あいつらは俺の…仲間みたいだって？はあ…話せば話すほど悲しくなってくるな…何か食べて心を落ち着かせないと。
ハリバートン
アニメーター、夢境の大物、ピノコニーの父…この街で彼の名を聞いたことのない者はいない。街の至る所、その細部に彼との関連がある。
だが実際に彼を見たことがある人はいないようだ──結局「時計屋」はどんな人物なんだろう…
彼がピノコニーを作ったと聞く。
彼について大多数が抱いている印象は確かにそれだね。「時計屋」に関する記録は少ないけど、彼の成し遂げたことについてはみんなが知っている。現代のピノコニーにおける最大の功労者と言える。
それゆえに疑問なんだ──これほど偉大な「職人」なのに、ピノコニーで彼の作品を見ないのはなぜだ？
「時計屋」というのは単なる称号のようなものに過ぎないのかも？
そうかもしれない。でもその背景にある物語に好奇心が湧くよ。この偉大な同業者と実際に会えたらいいのに。
同業者？
これは失礼、自己紹介がまだだったね──私はスクリュー星近くの「ハリバートン時計工房」から来た時計屋なんだ。
琥珀紀の前世紀には数々の富豪や名士に雇われて彼らの時計を作った。
彼らは自分だけの奇跡を手にしたいと強く望んでいた。私は制作過程で独特の原料を使うのさ。世にも珍しい宝、隕石の破片、無機生命体そのものとかね。
でも何かが足りないとずっと感じてきたんだ──この人生で私は世界最高の時計作りの技術を身に着けて、この世に2つとない「時計」を作りたい！
だから今回招待を受けてピノコニーにやってきたのは、ここで最も有名な職人と時計作りの技術を交換し合うためなんだ。この銀河でいまだ触れたことのない新技術がここにはあるに違いない。
でも残念なことに「時計屋」が一向に姿を見せない…どうやったら彼に会えるんだ？
平常心
ハリバートンは彼方のピノコニーの劇場を見つめながら物思いにふけっている。
空中高くに浮かぶ劇場…ひよっとするとあそこが「時計屋」の隠れ家なのかもしれない。
空にでも隠れていない限り、見つからないなんてことはないはずだよね？
話をしない？
もちろんいいよ。「時計屋」について何か情報を手に入れた？
💭「時計屋」について話す。
💭自分について話して。
さようなら。美しい夜を過ごせますように。
怒り
ハリバートンの胸元からせわしなく重みのあるチクタク音が聞こえた。
「パンッ！！！」動かなくなった部品の間から何かが弾き飛ばされ、手のひらに落ちた。
何かが熱い──いや、回転が速すぎる──速すぎるよ！！
心臓が不安定だ──耐えられる負荷を越えてる──こ、このままじゃ──
「パンッ！！！」動かなくなった部品の間から何かが弾き飛ばされ、手のひらに落ちた。
喜び
奇妙な感覚だ。エンジンオイルを増やして、ベアリングの回転が滑らかに、機敏になった時のような ……
チクタク、チクタク！時計のこんなにも軽やかな音を聞いたのは始めてだ。一体どこが変わったんだ？
「喜び」を感じたからだ。
物質的な素材以外にも、「感情」が針の躍動に影響するというのか？
これは素晴らしい大発見だ！
おっと、興奮しちゃってすまないね──この「喜び」という感情にまだ適応できていないのかもしれない。
これはお礼だよ。受け取ってくれ！
悲しみ
待ってくれ……これは……一体何だろう……
ハリバートンの胸元のチクタクという音がますますゆっくりになる。チック…タック…チック …… タック ……
これは …… パーツ …… それとも動力源 …… の …… トラブル …… か…………
何だか…すべてが …… だん………… だん………ゆっくり………………