巡海レンジャーのブートヒルは何かを企んでいるように見えたが、その目的はただ星穹列車と協力する前に身元を確認することだった。彼は、列車組が仙舟同盟から渡された「巡狩」結盟の証を持っているのを確認すると、自分の誠意を見せると同時にある気掛かりな事実を語った。「虚無」の陰りが美しき夢の中に広がり、列車組は今、危険にさらされている可能性が高いという。
「調和セレモニー」開幕まで、あと12システム時間 星穹列車 
速報です。ピノコニーの「調和セレモニー」のカウントダウンが始まりました。クロックボーイが刻む時計の針の音と共に、12システム時間後、この祭典は盛大な幕開けを迎えます……
言ったじゃろう！何かあるなら、ちゃんと「話し合って」解決しようと！
悪いな、毛むくじゃらのチビ。マジで大事な用があって、こういうやり方で頼むしかねえんだ。
自分が何をしているのかはわかっているようだな。なら、俺もこんなことをするリスクについて警告しよう。
兄弟、何そんなカッカしてんだ？こんなのただの挨拶だろ？
これが最後だ、お前の正体と来た目的を話せ。
オレはブートヒル、「巡海レンジャー」さ。
巡海レンジャー？
そんな驚くようなことか？幽霊でも見たような顔しやがって。巡海レンジャーは全滅したとでも思ってたのか？ぎゃははは！ま、長いことなりを潜めてたんだから、そう思われても無理ねぇか。
「巡狩」の義侠集団なら、星穹列車をトレインジャックしたりしないだろう。
まだ何もしてねぇだろ。銃を持って人と話したら全部「トレインジャック」になんのか？
ふ、普通そうなるじゃろ……
銀河には巡海レンジャーの現状に関する多くの噂があるが、正直どれもいい話ではない。お前を信じるのは難しいな。
はっ、笑わせる。まったく頭の足りねぇベイビーどもは、話をでっちあげるのが好きらしい。中には、巡海レンジャーは全員原始博士にテナガザルに変えられて、どっかの谷間でブランコに乗って遊んでるっつ一話まで……
ま、アンタらが信じないのは百も承知だ。もちろんオレも、アンタらが本物のナナシビトだって簡単に信じたりはしねぇ。
この銃の弾丸、見えるか？9ミリ、永遠のクラシックさ…今のオレは星穹列車の助けを必要としてる。だが、もしアンタらがアイツと同じように二セモノだったら…バン！この弾丸はオレの頭に打ち込まれることになるだろう。
そんなリスクを負うわけにはいかねえ…ってことで、まずはそっちが証明してくれ…おい、どこ行くんだ？
これが何かわかるか？
はあ？そいつは──結盟玉兆！？ベイビーが、仙舟はマジでそいつをアンタらに渡したのか！？
ベ、ベイビー…？
これは仙舟「羅浮」の景元将軍が列車に贈った玉兆。これが列車にあるということは、仙舟同盟が星穹列車の身元を認めているということだ。
これでは足りないか？
…上等だ、ガキ。
どんだけ離れたところにいても、軽く握るだけで何千何万もの雲騎軍を呼べる…ホーリースウィート、マジですげえな。
次はお前の番だ。
巡海レンジャーは表舞台から長く離れすぎてて、そういうお墨付きみてえなもんはねぇんだ。けど、こういう状況には慣れてる。解決方法は至ってシンプル……
さあ、なんでも聞いてくれ。オレの答えでアンタの信頼を得られるか見てみようぜ。追い出すのは、本気で怪しいと思ってからだって遅くはねぇだろ？
なぜこちらがお前に合わせなければならない？
オレが本当に巡海レンジャーなら、合わせておいて損はねぇぞ。
……
巡海レンジャーとはどんな組織か言ってみろ。
ハッ、兄弟、そりゃあ難しい質問だ。オレらは組織とは言いがたいからな。
強いて言うなら、「巡狩」の運命を歩んでて、自分が信じる正義を持ってる…ンでもって、あんま「普遍的価値」とやらに歓迎されてないヤツらの集まりってとこか。
そんな答えでは信頼を得るどころか、お前の立場をさらに悪くするだけだ。
アンタが聞きたいのは共通の「信念」とかそういうやつだろ？だが、巡海レンジヤーにンなもんは必要ねぇ。オレらが集まるのは、共通の「ライン」があるからだ。
弱者をいじめてはならない、罪のない者を無闇に殺してはならない…こういうのは別に高尚な信念なんかじゃねぇ。正真正銘、ただの人として絶対に超えちゃいけねぇラインだ。
巡海レンジャーとして、オレらはそのラインだけを守ってる。そんで誰かがそれを踏み躙ろうとする度、「巡狩」の報復がそいつのところにやってくるのさ。
その時、「ライン」のもう1つの意味がわかる──それに触れさえしなければ、何をしてもいいってな。わかるか？
2つ目の質問だ。なぜ星穹列車にトラブルを持ち込もうとする？
言っただろ、アンタらに迷惑かけるつもりはないって。ちょっとした用があってピノコニーに行かなきゃなんねぇんだが、招待状がないとファミリーはホテルにも入れてくれねえ。だがら…ナナシビトの肩書を借りるしかねえんだ。アンタらがファミリーのゲストだってことは、銀河中が知ってるからな。
巡海レンジャーもそうじゃろ？
おっ！マジでそこが肝っつーか…だからオレはここに来たんだよ！アンタらだから言うが、オレらは「二セモノ」を追ってるんだ。オレらと同じ見てくれをした「二セモノ」ちゃんをな。その女は今ピノコニーにいる。
オレの情報源はメモキーパーだ。ヤツは他のミーム生物と同じように突然現れ突然消える。このラブリーが、ビビらせてくれるぜ…だが、確かに重要な情報を提供してくれた。
巡海レンジャーになりすましている人物とは…誰だ？
それは3つ目の質問か？
答えられないのか？
いや、そうじゃねぇ。ただ、言っても信じてもらえねぇだろうと思っただけだ。そいつは「黄泉」と名乗ってる。オレらの協力者によると、ヤツは恐らく…「虚無」の使令だ。
それはあり得ない。
だから言っただろ？ま、無理もねぇさ。オレもこの話を聞いた時は、アンタと同じ反応だったから。
なら、使令が自分の身分を隠せることも知ってるだろ？ほとんどのヤツにとっては、むしろその方が都合がいい。さもないと、銀河の殺し合いの大舞台に上がるばかりか…歩むべき運命に背くことになるからな。
昔、オレは「愉悦」の使令に会ったことがある。見た目だけで言えば、あれはあのピエロ連中と何も変わらなかった。運よく相手を酔い漬せてなけりゃ、その正体があんな「大層」なもんだとはわからなかっただろうな！
「巡狩」みてぇに一番単純なのでさえ、光の仙舟同盟と影の巡海レンジャーとに分かれてる。結局、運命なんてもんは人間が創り出した概念で、オレらの認識を超えるもんは必ず存在してるってことだ。
「虚無」の使令が存在しねぇと思うのは…オレらが十分に「虚無」に染まってねぇからかもしんねぇぞ？
……
これでわかったろ？今アンタの仲間は危険な状態にある。かなり危険だと言ってもいい。まだ信じられないなら、そいつらにメッセージを送ってみろ。どっちにしろ、急いだほうがいい……
あの「黄泉」ってヤツが何を考えてるのかも…わからねぇんだからな。
一方その頃の黄泉
…私は何もするつもりはない。
それは君が決めることではない。
知っているか？初めて夢の地を訪れた者は、無意識のうちに足を止め、己がまだ固い地面の上に立っていることを確認する。そして、一様に空を見上げるんだ。
現実であろうと、夢であろうと、空を見上げるのは人間の本能。「黄金の刻」が完成したその日から、それはずっとそこにあり、道楽に溺れる夜を見守ってきた。
しかし今、この夜空は無情にも切り裂かれ、「虚無」の翳りに染まった。その過程は…たった一度の斬撃で終わってしまった。
「一度」…それは正確ではないな。正しくは二度…ただ二度目の斬撃が速かっただけだ。
重要なのはそこではない。
この宴には多くの招かれざる客が集まっている。たとえ「調和」が万物を抱擁しているとしても、ピノコニーの平和のためには、その中の何人かにはお引き取り願うしかない……
宴の星に君の居場所はないんだ、虚無の人形よ。影の中に生きる者は、光に照らされた舞台に立つべきではない。
影の中に生きるという点において、私たちに違いはないはずだ。少なくとも、他人と話す時は本当の姿を見せるべきだろう……ピノコニーの「夢の主」。
君を留めておけない理由が、また1つ増えた。
君が信じようと信じまいと、これが本当の「私」だ。
むしろ…全員が本当の「私」と言える。
これがファミリーの言う「ひとつにまとまった心」か？
私の肉体はとうに消え去った。今はオーク家の107336人の子供が私の目となり、耳となり、口となっている。必要な時には私に代わり、この美しい夢の中でハーモニーを広め、また必要な時には…私の代わりに、この楽園から悪を追放する。
それは…私にピノコニーを離れるよう頼んでいるんだな？
身の程を弁えているようで何よりだ。だが、残念ながら「頼んで」いるわけではない。
自分にできると思っているのか。
私を脅しているのか？
ああ…今のは質問じゃない。ただ…事実を述べただけだ。
私の正体を知った上で悪意を見せる者は、あなたが初めてでもなければ、最後でもない。同じような状況は過去に何度もあった。ほとんどの人は、先ほどのような問いに対して勇ましく「できないとでも？」と反論する。
だが、結果は…いつも「できない」なんだ。
自信があるのはいいが、忘れないでもらいたい──ファミリーは謙虚だが、決して軟弱ではない。「調和」の音は宇宙に響き渡っている。仮に君が従わず、その長刀を少しでも鞘から抜けば…一生「エターナリオン」の怒りから逃れられないだろう。
そして、その前に…137人。これは私が夢の主となってから、この手で追放した異邦人の数だ。彼らの中には私の双翼を折った者もいれば、私の肉体を焼き尽くした者もいる……
しかし、私は今もなおここに立っており、その数字を増やすことも厭わない。
あなたは死に向かう。正確には…「あなたたち」全員が。
……
……
…だが、そんなことにはならない。あなたの言う通り、ここから立ち去ろう。
とても賢明な選択だ。
他に選択肢はなさそうだからな。
確かに、君にとってはそれが唯一の道だろう。忘れるな、君とピノコニーは異なる世界に属している。彼岸に生まれた者は、此岸に居場所を見つけることはないのだ。
立ち去れ、そして永遠に戻ってくるな。宴の星の光はあまりにも眩しく、多くの偽り者、悪人、罪人を引き付けてきた。しかし、いくら「調和」であっても…「虚無」の自滅者を歓迎することは絶対にない。
その自滅者が周囲のあらゆるものを道連れに滅ぼそうとしているのなら、なおのことだ。君の力は明らかに眠る無相者 の贈り物。底が見えず、まるで深淵から流れ出る支流のように、生きとし生けるものに死と罪をもたらす。
「黄泉」…まさにその名の通りだ。
これは彼岸から来た者の忠告だと思ってくれ。ピノコニーは「調和」の道から外れている、それは私よりもあなたの方がよくわかっているはずだ。あなたたちの目的が何であれ…私には1つの結末しか見えない。
──それは果てしない「虚無」。其 の影の中で溺れ死んだ、すべての世界と同じようにな。